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大津地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決 1997年12月08日

第一事件・第二事件原告(以下単に「原告」という。)

宗教法人園城寺

右代表者代表役員

福家俊明

右訴訟代理人弁護士

吉原稔

武川襄

篠田健一

第一事件被告(以下単に「被告」という。)

文化庁長官 林田英樹

右被告文化庁長官指定代理人

足立豊重

鳥居慎一

村田信夫

川島治彦

第一事件被告(以下単に「被告」という。)

滋賀県

右代表者知事

稲葉稔

第一事件被告(以下単に「被告」という。)

滋賀県知事 稲葉稔

同(以下単に「被告」という。)

滋賀県教育委員会

右代表者教育委員長

南光雄

右被告滋賀県、同滋賀県知事及び同滋賀県教育委員会訴訟代理人弁護士

上原健嗣

右被告ら指定代理人

足立豊重

鳥居慎一

宮本忠雄

村田信夫

川島治彦

第二事件被告(以下単に「被告」という。)

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右被告文化庁長官及び同国指定代理人

関述之

鈴木英昭

村上武志

北村繁隆

児玉光祐

早川俊章

浅井浩文

唐沢裕之

長谷川裕恭

永井隆夫

滝波泰

鈴木修二

理由

第一  第一事件被告らの本案前の主張について

一  請求の趣旨第1項及び第2項の訴えについて

1  被告文化庁長官に対する訴えについて

(一)(1) 原告が、被告文化庁長官に対して、補助金の交付決定を求める訴え及び交付決定義務の確認を求める訴えは、行政庁に対して作為を求める給付訴訟、及び作為義務の確認を求める訴えであると解されるところ、行政事件訴訟法に何らの定めのないこの種の訴えは、三権分立制度との関係上、<1>行政庁が当該行政処分をなすべきことについて法律上き束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められ(以下「明白性の要件」という。)、しかも、<2>事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要性が顕著であり(以下「緊急性の要件」という。)、<3>他に適切な救済方法がない(以下「補充性の要件」という。)という各要件を満たし、行政庁に一定の作為を命じても、行政機関の第一次的判断権を害さない場合においてのみ許されるものと解するのが相当である。

そこで、これを本件についてみるに、原告の、被告文化庁長官に対する本件訴えは、文化財保護法三五条一項を根拠とし、適正化法〔編注、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律〕六条一項の交付決定を求めるものと解されるところ、文化財保護法三五条一項は、「重要文化財の管理又は修理につき多額の経費を要し、重要文化財の所有者又は管理団体がその負担に堪えない場合その他特別の事情がある場合には、……補助金を交付することができる。」と規定しているものの、法文上、補助金交付が義務的であるとは明記されていない上、交付決定ができる場合の要件についても抽象的に定められているに過ぎない。また、同法は、それ自体が、重要文化財の修理について所有者負担を原則としており(同法四条二項、三四条の二本文)、交付決定を求める申請権については何ら明記していない。

さらに、そもそも補助金交付決定は、国民の権利、自由を剥奪し、又はこれに義務を課するようなものでもないため、性質上、その諾否については一定の裁量が認められやすいものであるところ、被告文化庁長官が主張するように、国家予算の財政的制約の下において、国が一万件以上ある重要文化財のすべてについて多額に上る管理及び修理の経費の大半を援助することは実際上不可能といわざるを得ないのであるから、本件を含め、いかなる重要文化財等に対し、いかなる程度の補助金を交付するかについては、被告文化庁長官の広い専門的、技術的裁量にゆだねられていると解するのが相当であり、本件補助金の交付決定についての第一次的判断権は被告文化庁長官に留保されているというべきである。

したがって、被告文化庁長官に補助金を交付することが裁量の余地なく義務づけられており、適正化法上の交付決定を行うことが、法律上き束されているものと解することはできないから、本件訴えは右<1>明白性の要件を欠く不適法なものとして却下を免れない。

(2) もっとも、この点、原告は、請求の趣旨第1項の事業について、それが多年度にわたる継続的なものであること、過去三年間は交付決定がなされ事業が開始されていることを指摘して、「本件は、既に補助金を九年にわたって交付することが、初年度の交付決定において決定されている」「文化財補助金の性格からして、九ヵ年計画による過去三ヵ年の補助金交付決定によって、次年度以降の交付決定が義務付けられている」と主張する。

しかしながら、本件記録上、昭和六三年の交付決定が、原告主張のように次年度以降の補助金交付までを含めて決定されたものであったと認めるに足りる証拠はなく、また、被告文化庁長官の主張のとおり、予算会計年度独立の原則(財政法一二条)から考えて、後の年度についても補助金交付を義務づける内容の交付決定は法律上許されないことに照らしても、昭和六三年度の交付決定が、原告主張のとおりであると解することはできない。

また、右予算会計年度独立の原則や将来の事業計画に関する修正変更の可能性や財政状況の変動の可能性等に照らせば、本件復元事業について、過去三ヵ年に補助金交付決定があり、その上仮に右復元事業計画が昭和六三年度の補助金交付申請の際に提示されていたとしても、それだけでは、直ちに次年度以降も右計画に従って交付決定を行うことがき束されると解することもできない。

さらに、文化財保護法及び適正化法は、文化財の所有者が当該文化財の修理をすることを禁止してはいないので、原告は、他の財源をもって、当該文化財の修理を行うことは可能であるから、既に事業が開始されていることをもって、次年度以降の交付決定が義務付けられると解することはできず、また、そのことから、右<2>の緊急性の要件を満たすとも認められない。

以上のとおり、原告の被告文化庁長官に対する請求の趣旨第1項及び第2項の訴えは不適法といわざるを得ない。

(二) 被告滋賀県、同滋賀県知事及び同滋賀県教育委員会に対する訴えについて

本件訴えは、行政庁に対して作為を求める給付訴訟、及び作為義務の確認を求める訴えと解されるが、かかる訴訟は、行政庁の積極的な公権力行使に対する不服の訴訟である行政庁の違法な処分の取消しを求める訴訟(いわゆる取消訴訟)とその本質を同じくするものということができる。したがって、被告適格についても、行政庁の違法な処分の取り消しを求める訴訟の被告適格に関する規定を類推すべきであり、法もそのことを予定していると解される(行政事件訴訟法三八条一項、一一条)。

そして、文化財保護法三五条一項(同法七五条で準用される場合を含む。)、適正化法六条、二六条及び文化庁の所掌に係る補助金等についてその交付に関する事務を文化庁長官に委任した件(昭和四三年六月一五日文部省告示第一七三号)により、右補助金交付決定を行うべき行政庁は文化庁長官であるから、文化庁長官を被告とすべきものと解されるところ、原告は、被告を誤り、滋賀県、滋賀県知事及び滋賀県教育委員会を被告として本件訴えを提起しているので、右訴えは被告適格を欠く不適法なものとして却下を免れない。

2  請求の趣旨第3項の訴えについて

(一) 被告滋賀県及び同滋賀県教育委員会に対する訴えについて

右1(二)で述べたとおり、本件訴えについては、その補助金交付決定を行う行政庁を被告とすべきところ、当該補助金交付決定を行う行政庁は滋賀県知事であり(滋賀県補助金等交付規則四条)、滋賀県及び滋賀県教育委員会には被告適格がないので、本件訴えも不適法として却下を免れない。

(二) 被告滋賀県知事に対する訴えについて

原告が、滋賀県知事に対して、滋賀県文化財保存事業(国指定文化財管理費)の補助金交付決定を求め、また、その義務のあることを確認することを求める本件訴えが許されるためには、右1(一)で述べたとおり、明白性の要件、緊急性の要件及び補充性の要件を備えなければならないと解される。

ところで、被告滋賀県知事が、滋賀県文化財保存事業(国指定文化財管理費)補助金交付決定を行う場合には、特に具体的な根拠規定はないけれども、文化財保護法九八条の「地方公共団体は、文化財の管理、修理、復旧、公開その他その保存及び活用に要する経費につき補助することができる。」を一般的な根拠規定として、滋賀県の補助金について、滋賀県知事が、滋賀県補助金等交付規則四条一項に基づいて補助金交付決定を行うこととなる。そして、右滋賀県補助金等交付規則は、前記補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律と同趣旨であり、その一条において、「この規則は、法令、条例または他の規則に特別の定めがあるもののほか、補助金等の交付の申請、決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的な事項に関し必要な事項を定めるものとする。」と規定し、同四条一項において、「知事は、補助金等の交付の申請があったときは、当該申請に係る書類の審査および必要に応じて行なう現地調査等により、その内容を審査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに補助金等の交付を決定するものとする。」と規定している。

そこで右根拠規定である文化財保護法の規定を検討しても、先に述べた1(一)と同様の理由により被告滋賀県知事に対して補助金交付が裁量の余地なく義務づけられているとは解されない。したがって、右1(一)で述べたのと同様に、本件訴えも明白性の要件を欠くものといわざるを得ず、また、被告滋賀県知事が主張するように、本件については緊急性も認められない。

したがって、訴えの利益について判断するまでもなく、不適法なものとして却下を免れない。

3  請求の趣旨第4項の訴えについて

被告滋賀県は、原告の本件訴えは、金員の給付を求めるものであり、行政事件訴訟法において関連請求として規定されている同法一三条一項一号ないし六号のいずれにも該当しないから、客観的併合の要件を満たさず、不適法であると主張する。

しかしながら、仮に、訴えの併合が認められない場合であっても、本件については併合状態のまま審理が続けられて終結にいたっており、このような場合には、関連請求として提起された請求について分離することなく、実体判決をすることも許されると解されるので、本件請求については、その点について判断することなく、実体判断を行うこととする。

二  請求原囚について

1  第一事件請求の趣旨第4項の請求について

原告は、被告滋賀県知事が、平成三年度及び平成四年度の滋賀県文化財保存事業費補助金の交付決定を行うことが義務づけられていることを前提として、被告滋賀県に対して同補助金の請求をしている。

しかしながら、一の2の(二)で述べたとおり、原告主張の事実から被告滋賀県知事が、右補助金交付決定を行うことが義務付けられており、原告が、右補助金交付請求権を実体法上有しているとは認められない。さらに、原告は右交付決定が存在しないことを前提に右請求をしているところ、具体的な補助金交付請求権は、交付決定により発生すると解され、現実には原告に対する右補助金交付決定は存在しないのであるから、原告が具体的な補助金交付請求権を有しているとも認められない。したがって、右原告の主張は失当であるといわざるを得ない。

2  第二事件請求について

本件支払請求についても、原告は、右1同様、被告文化庁長官が(名勝・史跡)善法院庭園保存修理事業及び園城寺重要文化財(美術工芸品)金地著色滝図ほか三八面の襖絵の保存修理事業の補助金の交付決定を行うことが義務づけられていることを前提として被告国に対して同補助金の支払いを求めている。

しかしながら、本件支払請求についても、原告主張の事実から被告文化庁長官が右補助金交付決定を行うことが義務づけられており、原告が実体法上補助金交付請求権を有しているとは認められない。そして、補助金交付請求権は、交付決定により初めて具体的に発生すると解されるところ、原告は、本件事業に対する補助金交付決定は存在しないことを前提に右請求をしているのであるから、原告が具体的な補助金交付請求権を有していないことは明らかである。

よって、原告の本件支払請求についても主張自体失当といわざるを得ない。

(裁判長裁判官 鏑木重明 裁判官 末永雅之 小西洋)

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